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医療スタッフ間のコミュニケーションの重要性

医療スタッフ間のコミュニケーションの重要性

多職種連携が求められる現代の医療現場において、スタッフ間のコミュニケーションは医療の質や職場環境に大きく影響します。本記事では、医療スタッフの協働を支える対話のあり方について、現場の事例とともに詳しく解説します。

※2024年7月に開催されたオンラインセミナーにご登壇いただいた内容を書き起こしまとめています。

1. チーム医療の基盤を築くコーチング


医療は多職種の力によって支えられており、チーム全体が一体となることで初めて高い成果が得られます。
今回は、チーム医療の理想像と、それに向けた取り組みとして行った「コーチング」を取り入れた病院の現場改善の成果を紹介します。役割分担の見直しや業務の最適化がどのようにして患者数や売上の向上に繋がったのかを具体的に掘り下げていきます。

① 理想的なチーム医療


現代医療における理想的なチームとは、単なる役割分担ではなく、専門性を尊重し合い、相互に補完し合う関係性です。

・医師は診療、看護師はケア、薬剤師は投薬管理など役割が明確であること。
・必要なときには職種の垣根を越えて助け合える柔軟性があること。
・情報共有が常に開かれ、共通のゴールを見据えた連携がなされていること。

こうしたチームが機能することで、患者中心の医療が実現され、スタッフのモチベーションや業務満足度も向上します。

◆コーチングのメリット (コーチングを取り入れた病院経営層の感想)
・多職種連携が円滑になり医療事故が減った 
・看護師の離職率が下がった 
・心理的安全性が高い職場になった

人手不足・転職などで医師・看護師が簡単でやめてしまうと、医療レベルが下がってしまいます。
コーチングを取り入れてる病院は離職者を減らしてる実績があり、コーチングを前向きに捉える方が若い人材にとっては働きやすい環境になるようです。
院内で働く人たちの環境が整うことで、初診外来を断らずにどんどん診ることができて、患者さんの評判が良くなり病院経営が円滑になるといった、良い連鎖を作られていきます。


② 順天堂大学静岡病院糖尿病・内分泌内科売上高の推移 コーチングを学んで


順天堂大学静岡病院では、コーチングを学ぶことでチーム医療の推進によって業務効率と質が向上し、売上高にも好影響が見られました。

・診療体制の見直しにより、医者がやらなくていい仕事をタスクシフトができるようになり、患者回転率が向上。
・スタッフの連携強化により、診療時間の適正化と医療サービスの質の均一化が実現。 残業が減った。
・売上高の安定的な増加により、チーム医療の経済的有効性が示された。

データからも、医療の質と組織パフォーマンスは密接に関係していることが読み取れます。


③ 業務棚卸しで専門性を最大限に活用、新患診察数が増加


業務の棚卸しとは、日々の業務を整理・可視化することで業務の重複や偏り、属人化を防ぐ仕組みです。

・医師、看護師、薬剤師など、それぞれの専門職に合った業務を最大限に再構築。持っていた業務を教えきることが大事です。
<医師>
 ・本当に医師にしかできない業務に専念してもらう
 ・他の医療者でもできることは、きちんと教えきってタスクシフトしていく
<看護師>
 ・本当に看護師しかできない業務に専念してもらう
 ・他の医療者でもできることは、きちんと教えきってタスクシフトしていく
 ・専門ナースの資格を、そのナースに最大限に発揮してもらう
<薬剤師・管理栄養士・各種技師>
 ・自分の職種でできる業務を最大限に活用してもらう
 ・医師や看護師は、きちんと教えきってタスクシフトしていく
<医療事務・助手>
 ・可能な限り、きちんと教えきってタスクシフトしていく
 ・業務オーバーの場合は、各医局などで秘書採用などを検討

【ポイント】 お互いに納得した上でタスクシフトを行っていき、その後、現場の状況に応じ、必要であればタスクシェアを検討していく。

・診療補助的業務を看護師・事務に再配分し、医師が診察に集中可能に。
・その結果、新患の診察数が増加し、全体の診療効率が向上。

これは単なる業務効率化ではなく、「人材の価値を活かすマネジメント」として、職種間の信頼関係にも良い影響を与えました。


2. 働き方改革を支えるコミュニケーション


医療現場でも働き方改革が本格的に進められていますが、その成功には単なる制度改革だけではなく、職員同士のコミュニケーション改善が欠かせません。
アンケートや導入事例を通じて、職場の雰囲気や課題を可視化し、コーチングやリスキリングによって対話の質をどう高めていけるのかを検討します。

④ アンケート回答者職種・役職


コーチングを学んでる経営層・幹部クラス、職種横断で実施したアンケート調査の結果(2020年時点)、さまざまな視点からの課題が明らかになりました。

・医師:「業務負担の偏り」「診療と管理業務の両立困難」
・看護師:「部門間での温度差」「連携の難しさ」
・事務職:「自分たちの意見が反映されにくい」

このように、職種ごとに改革に対する感じ方や期待に違いがあり、「対話の場をどう設けるか」が成功の鍵を握っています。

⑤ 働き方改革の取り組み状況


コーチングを学んだ人たちへのアンケート(2020年時点)
 Q:「医師の働き方改革」は進んでますか?
 A:医師の働き方については「約4割以上」、 医師以外の働き方改革「半数以上」 

具体的に実施されている主な取り組みには、以下のようなものがあります。
・残業時間の短縮と勤怠管理の適正化。
・年次有給休暇取得率の向上に向けた取り組み。
・業務分担の見直しによるタスクシフトの推進。

しかし、これらの制度は「導入すること」がゴールではなく、「現場で納得され、実行されること」が最も重要です。スタッフ間で取り組みの意義や成果を語り合う場づくりが、改革定着へのステップになります。

⑥ 働き方改革におけるコーチング活用領域


コーチング導入の効果は以下のような場面で特に発揮されています。

・中堅・若手スタッフが、上司との1on1ミーティングで自分の意見を言えるようになる。
・管理職が「指示」から「問いかけ」へと変わり、部下の考える力を引き出すようになる。
・日常的な雑談の中にも意味ある対話が増え、コミュニケーションをとる事で職場の雰囲気が柔らかくなる。

「答えを与える」のではなく、「相手の中の答えを引き出す」この姿勢こそが、働き方改革の推進力となり、スタッフの自律性と組織力を高める鍵になります。

⑦ 病院内にコーチングを取り入れた病院長等へのインタビュー


実際に病院内でコーチングを導入している病院長や部門長のインタビューでは、導入の意図や経緯、現場の反応までが語られています。最初は懐疑的だった管理職も、実際に職員の反応やチームの雰囲気が変わるのを目の当たりにし、現在では「必須のマネジメントスキル」として捉えるようになっています。

・離職者が減った。
・報告・連絡・相談が“義務”から“対話”へと変化した
・医療事故やクレーム報告が隠されにくくなった
・職員が意見を言いやすくなり、チームの主体性が高まった

また、ある病院長はこう語っています。「最初は“会議の時間が増えるのでは”と懸念する声もありましたが、結果的にミスやトラブルが減り、長期的には業務効率も向上しました」。
導入にあたっては、病院のビジョンに基づいた丁寧な説明と、トップ自らが実践する姿勢が成功の鍵になったとのことです。



⑧ 病院経営者のリスキリングとは ― コミュニケーション力の再習得


医療の現場では、現場スタッフだけでなく、経営者や管理職の関わり方が組織文化を大きく左右します。
近年では、「コミュニケーションスキルを学び直す=リスキリング」と捉える動きが強まりつつあります。
特に重要とされるスキルには次のようなものがあります。

・相手の立場や感情を尊重して聴く「傾聴力」
・問いかけによって気づきを促す「質問力」
・評価ではなく成長を促す「フィードバック力」

これらを経営者や管理職の50代、60代、70代の方がリスキリングを積極的に行い、そして身につけることで、指示命令型のマネジメントから、対話と伴走を重視する支援型マネジメントへと移行できます。
管理職自身が学ぶ姿勢を見せることが、現場の信頼を生み、組織変革を進める原動力となります。

3. 心理的安全性とチーム成長のために


スタッフ一人ひとりが安心して意見を述べ、失敗を共有できる文化のある職場こそが、強いチームを育てます。
この章では、心理的安全性を軸に、リーダーの関わり方、パンデミックを通して得た教訓、そしてチームが成長していく過程について詳しく述べます。

⑨ リーダーがどんなことをすれば、フィアレスな組織を作り出せるか?


心理的安全性のある職場では、メンバーが意見を自由に発言でき、失敗を共有することも恐れずに行えます。
その文化を根付かせるためには、リーダー自身が“安全な存在”であることが求められます。

・自身の弱さや失敗を隠さずオープンにする
・部下の話を途中で遮らず、最後まで丁寧に聴く
・失敗や違和感を指摘された際に感情的にならず受け止める

これらの姿勢がチーム全体の安心感を生み、組織としてのチャレンジや協働の質を高める土台となります。

⑩ コロナ禍を経て分かってきた「医師の働き方改革」


コロナ禍は、従来の働き方や価値観を大きく揺さぶる出来事でした。
特に医師にとっては、診療だけでなく感染対策・患者対応・心理的負担など多くの重責がのしかかりました。その中で明らかになったのは、“医師の働き方改革”は単なる労働時間の調整ではなく、「医師の職場環境と人間関係の再構築」であるということです。

・オンライン診療やリモート会議の導入
・交代勤務制の推進と休息時間の確保
・現場の声を吸い上げる仕組みづくり

【ポイント①】 辞めない組織づくりを実行しない限り、優秀な人材は集まらない
【ポイント②】 辞めない組織づくりを実行してる病院には、すでに優秀な人材が集まり始めている!

コロナを経て、医療現場はより柔軟で持続可能な働き方を模索するようになり、対話と共感を基盤とした職場づくりが重要視されるようになりました。


⑪ チームの発達段階


チームは自然に成熟するわけではなく、発達段階を経て機能的な集団へと成長していきます。医療チームも例外ではなく、以下のような段階があります。

・形成期(Forming): メンバーが集まり、関係性を探っている段階。 → ★コミュニケーションを沢山とる事
・混乱期(Storming): 意見の対立や摩擦が表面化する時期。  → ★質の高いコミュニケーションをとる必要がある(研修など)
・統一期(Norming): ルールや信頼関係が生まれ、チームらしさが出てくる。
・成果期(Performing): 目的にかって高いパフォーマンスを発揮できる段階。

リーダーには、それぞれの段階で適切な関わり方や声かけが求められます。
混乱期での「対話を恐れない姿勢」、統一期での「役割の明確化と承認」、成果期での「目標とやりがいの再提示」など、段階を踏まえたマネジメントがチーム力を左右します。


4. 地域とつながるチーム医療


今後、病院単体で完結する医療ではなく、地域全体で支える「面の医療」が求められます。
この章では、チームビルディング研修の工夫や、地域連携のためのインフラ整備、そして顔の見える関係づくりの必要性についてまとめます。

⑫ 医師・医療職向け チームビルディングの土台作りのためのマネジメント研修(例)


当院では、チーム医療の土台として心理的安全性や相互理解を高めることを目的に、医療職向けのマネジメント研修を実施しています。研修では以下のような内容を取り入れました。

・グループワークによる「自分の役割の言語化」
・ロールプレイを通じた「他職種視点の体験」
・「聴き合う練習」を通じた傾聴の実感

参加者からは「他職種の業務背景を初めて理解できた」「現場の空気が柔らかくなった」との声が多数寄せられ、継続的な実施の意義が示されています。


⑬ 地域医療連携システムの関連施設


院内だけでなく、院外との連携強化も重要なテーマです。特に近年注目されているのが、ICTを活用した地域医療連携システムです。

・電子カルテの共有システム(病院―診療所―訪問看護間)
・紹介・逆紹介に関する情報連携ツール
・患者の服薬・検査・生活情報の一元化と参照

これにより、地域の関係施設がコミュニケーションをとって、それぞれの役割を果たしながら、情報をシームレスに共有できる環境が整いつつあります。


⑭ 地域医療連携推進に向けた、関連し合う様々な施設・インフラ等


地域包括ケアの理念に基づき、医療機関だけでなく介護・福祉・行政・住民も含めた「面的な医療」の実現が求められています。今後さらに重要になる連携対象は、
・介護施設、訪問介護、デイサービス
・地域包括支援センター、ケアマネジャー ・行政機関(保健所、福祉課など)
・NPOや地域住民の支援団体

これらの間に信頼関係を築き、定期的な顔合わせや研修会などを通じてつながりを深めることが、連携強化に向けた大きな一歩になります。

まとめ:コミュニケーションは医療の基盤


コミュニケーションは単なる情報伝達ではなく、信頼と尊重を育む対話そのものです。
職場に安心感と一体感をもたらし、結果として医療の質や患者サービスの向上に繋がります。すべてのスタッフが対話を大切にし、小さな行動から改善を重ねることが、より良い医療現場の実現につながるでしょう。

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