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産業医による職場巡視の目的とポイントは?実施は2か月に1回でいいの?

産業医による職場巡視の目的とポイントは?実施は2か月に1回でいいの?

産業医の行う業務に職場巡視があります。

これは従業員の安心・安全な職場環境を整えるために、産業医は定期的に巡視をすることが労働安全衛生規則第15条によって義務付けられるからです。オフィス・店舗・工場など職場形態は様々ですが、職場巡視をすることで、産業医は企業に対し、職場環境の衛生面のチェックを含め従業員の健康を維持する上での問題発見と改善につなげるための取り組みです。

ここでは産業医の職場巡視について解説していきます。

そもそも職場巡視とは?

産業医が定期的(毎月1回以上:所定の条件を満たせば2か月に1回)に職場巡視をすることで、事業場内の労働環境を把握し、改善するべきポイント(作業環境や作業手順など)があれば、事業者に対して改善を指導することができます。
また、産業医による職場巡視を実施していなかった場合、罰則として事業者は50万円以下の罰金もしくは6ヵ月以下の懲役となります。(労働安全衛生法第120条)
もし、労災事故が発生した場合、事業者の責任を問われることになりますので、必ず法令を遵守して職場巡視を実施しましょう。

職場巡視の目的について

産業医は従業員の健康管理をする上で、どのような労働環境で働いているかを把握し、従業員の健康を損ねる箇所があれば、専門的な立場から改善するよう事業者に指導をします。
特に危険を伴う作業や有害物質を取り扱う労働環境において、産業医から早急な改善指導を受けた場合は、事故が発生する前に速やかに対処しましょう。
産業医による職場巡視を実施したら必ず記録を残し、改善指導があれば衛生委員会で議題にあげて対応を話し合う必要があります。
職場巡視さえ実施していれば問題ないということはではありません。改善指導を受けた箇所について検証・対処もせず、もし重大な事故が発生した場合は、事業者が安全配慮義務を果たしていないことになり、多大な損害賠償請求に応じなくてはならない可能性があります。

また、産業医は面談対象者以外の従業員と会う機会は多くありません。そのため職場巡視は、多くの従業員と顔を合わせる数少ない機会でもあります。
職場巡視を通して多くの従業員に産業医の存在を知ってもらうことは、経営者が安心・安全な労働環境の整備に努めていることや、初めて産業医面談に臨む従業員にとっては「見たことがある先生」との面談となり心理的負担の軽減に繋がることがあります。

職場巡視をする際のチェックポイント

【事務所衛生基準規則】
事務所における快適な労働衛生環境の確保を図るために制定された「事務所衛生基準規則」というものがあります。「事務所衛生基準規則」は、事務所について適用されます。(第1条)
ここでいう「事務所」とは、建築物またはその一部で、事務作業に従事する労働者が主として使用するものをいいます。このため、工事現場の一部において、ついたて等を設けて事務作業を行っているものは、本規則にいう事務所には該当しません。
また、事務作業には、カードせん孔機、タイプライター等の事務用機器を使用する作業も含まれています。

それぞれのチェック事項について、事務所衛生基準規則の基準数値等を十分に理解しておかなければなりません。
それでは、実際に職場巡視をする際に、どのようなポイントに注意をする必要があるのか確認していきましょう。

空気・温熱環境

・気積10㎥/人以上、CO濃度:50ppm以下、CO2濃度:5000ppm以下
・気流0.5m/s以下
・室温17度以上、28度以下
・相対湿度40%以上70%以下
※エアコンの温度・湿度設定ではなく、実際の温度計・湿度計による管理が必要です。
・受動喫煙防止対策
・換気設備

採光・照明 等

・(推奨)一般事務でも最低500ルクス、通常750ルクス以上、設計業務では1500ルクス以上
※(改正)作業面の照度【事務所則第10条】※令和4年12月1日施行
 事務作業における作業面の照度の作業区分を2区分とし、基準を引き上げた。
 一般的な事務作業(300ルクス以上)
 付随的な事務作業(150ルクス以上)
 個々の事務作業に応じた適切な照度については、作業ごとにJISZ 9110などの基準を参照する。

・VDT作業(コンピュータを用いた作業)
不自然な作業姿勢になっていないか、机上や足周りに荷物を置いていないか、一定作業時間ごとに休憩は設定しているか

・85dB以上の騒音箇所の有無

整理整頓

・整理、整頓、清掃、清潔の実施
※特に給排水設備等の清掃の実施
・安全対策や地震対策の実施

休養・休憩室

常時50人以上または、常時女性30人以上の労働者がいる場合には、横になって休むことができる男女別の休養室を設置する必要があります。
・横になって休むことができるか、座って休める環境
・室温の管理
・換気設備
・冷蔵庫の中の整理(所有者・保存期間)

AED・消火器など

・AEDの設置と設置場所
・消火器の設置と設置場所
・防災備品(ヘルメット・保存食等)の管理
・救急用具の設置・使用又は有効期間の管理
(改正)救急用具の内容について(令和3年12月1日)
作業場に備えるべき救急用具・材料について、一律に備えなければならない具体的な品目についての規定を削除した。
職場で発生することが想定される労働災害等に応じ、応急手当に必要なものや常備薬等の設置を産業医等の意見、衛生委員会等での調査審議、検討等の結果等を踏まえ、備え付けることとした。

※インターネット検索すると多くのチェックリストが掲載されておりますので、自社に合ったチェックリストを作成するためにも、利用してご参考にしてください。

※今後も法改正により基準が変更となる場合がありますので、定期的にチェックリストの更新確認をしていく必要があります。

職場巡視は2か月に1回でいいの?その条件とは?

企業のご担当者から「産業医訪問も職場巡視も2か月に1回でいいですよね?」とご質問をいたくことがありますが、本来の目的や条件をご理解いただく必要があります。

目的:なぜ職場巡視は2か月に1回でもよいのか

まずは産業医による職場巡視について、労働安全衛生規則等の改正がなされた背景として、近年の産業医業務は長時間労働による健康障害の防止や、増加傾向にあるメンタルヘルス対応など産業医が対応する業務が増加しております。
そのため、業務増加の対策として情報収集に当たり、毎月「所定の情報」が事業者から産業医に提供される場合に限り、産業医の職場巡視の頻度を2か月に1回とすることが可能となりました。

つまり、毎月「所定の情報」を産業医に提供することで、「毎月1回以上」から「2か月に1回」に変更することが可能となり、産業医が毎月「職場巡視」に充てていた時間を、増加する業務(長時間労働対応やメンタルヘルス対応など)を効率的に対応することが目的となります。

※法改正により、2か月に1回の実施が可能となったのは職場巡視であり、産業医訪問が2か月に1回でよいとの解釈ではないことがポイントとなります。
例えば、長時間労働者がいた場合は、30日以内に医師面談を行うことになりますので、訪問が2カ月後では対応できないことになります。例えオンラインだとしても面接は毎月実施していくべきです。

手順:事業者の同意

職場巡視の実施回数を「毎月1回以上」から「2か月に1回」に変更する際に、産業医の意見だけで変更することや、事業者の都合だけで変更することはできません。
産業医の意見を参考に衛生委員会などで調査審議を行った上で、事業者の同意を得る必要があります。
また、職場巡視の実施回数の変更後は、一定期間を定め衛生委員会で職場巡視の回数が妥当かどうか産業医の意見を参考に事業者同意の更新・検証をしていきましょう。

条件:産業医に提供する「所定の情報」とは?

職場巡視の回数を毎月1回以上から2か月に1回以上に変更する際に、事業者から産業医に下記3項の「所定の情報」が毎月提供されることが条件となります。

(1)衛生管理者が少なくとも毎週1回行う作業場等の巡視の結果
・ 巡視を行った衛生管理者の氏名、巡視の日時、巡視した場所
・ 巡視を行った衛生管理者が「設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるとき」と判断した場合における有害事項及び講じた措置の内容
・ その他労働衛生対策の推進にとって参考となる事項

(2)上記(1)に掲げるもののほか、衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
【例】
・ 労働安全衛生法第66条の9に規定する健康への配慮が必要な労働者の氏名及びその労働時間数(つまり長時間労働をしている労働者の氏名及びその労働時間数のこと)
・ 新規に使用される予定の化学物質・設備名、これらに係る作業条件・業務内容
・ 労働者の休業状況

(3)休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合における、その超えた時間が1か月当たり100時間を超えた労働者の氏名、及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報(※改正により産業医への提供が義務付けられた情報)

まとめ

職場巡視は産業医の重要な業務の一つです。専門的な立場から従業員の健康を損ねる箇所を早期発見し、改善するよう事業者に指導することで労災事故や健康被害を未然に防ぐことができます。
季節や天候、繁忙期かどうかでも、産業医から見て従業員の健康を損ねる要因が変わるため、基本的に職場巡視は毎月実施することをお勧めします。
産業医による改善の指摘箇所があれば、衛生委員会の議題とし、改善・検証をして従業員の健康維持・促進に繋げていきましょう。

日本産業医支援機構では、①企業に合った産業医のご紹介 ②産業医(医師)面接が必要な企業に面接機会をご提供しております。
また、職場巡視の際にはチェックリストを提供し、同業種や他業種の「職場改善の取り組み事例」などのアドバイス・情報提供をさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。

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