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会社に厳しい“過労死の認定基準(過労死ライン)”の変更

会社に厳しい“過労死の認定基準(過労死ライン)”の変更

働き方改革が進められる中、“過労死の認定基準(過労死ライン)”の変更も伴い、長時間労働による従業員の健康被害が益々問題視されている昨今、会社としてどのような点に注意し対応すれば良いのか、今回は “過労死の認定基準(過労死ライン)”の最新の改定内容と今後会社が注意するべき点について解説いたします。

過労死の認定基準(過労死ライン)とは?

過労死認定基準
過労死の認定基準とは労働基準監督署が「労働が原因で発症したり死亡したりした」と認定する基準のことで、それをクリアすれば「労災認定」を受けていろいろな補償を受けることができますので、「過労死ライン」とも言われています。

その「過労死ライン」には2種類があり、一つ目が「脳・心臓疾患用」であり、二つ目が「精神疾患用」となります。それぞれ数年に一度改定されていますので、会社としては最新の改定内容を理解し対応することが必要となります。
それではまず、最新(2024年1月現在)の改定内容についてご紹介していきましょう。

過労死ラインの改定内容

過労死ラインの認定内容(厚生労働省のホームページより)
過労死ラインの一つ目の「脳・心臓疾患用」に関しては2021年(令和3年)9月に改定がなされ、二つ目の「精神疾患用」は2023年(令和5年)9月に改定されたばかりです。それぞれどのような変化があったのかを確認してみましょう。

それまでの「過労死ライン」は発症前の平均で80時間超えの時間外休日労働の時間を越えているかどうかで判断されていましたし、80時間が過労死ラインだと認識している経営者や人事・労務・総務部門の担当者様がほとんどだと思います。
 しかし、2021年(令和3年)9月の改定でその80時間に届かなくても「一定の労働時間以外の負荷要因」がある場合は、言わば「合わせ技一本‼」として認定されることになったのです。

※2021年9月に改定された労災認定基準については、以前のブログでも改正に関するポイントと今後企業としてどのような対応が必要なのかについて触れておりますので、ぜひご参照下さい。

【ブログ】『過重労働での労災認定基準の見直しと企業としての対応』はコチラ >>>

今後、会社が気を付けるべき注意点とは?

会社が気を付けるべき注意点
今回の改定で国は正面から月65時間への引き下げは行っていませんが、時間外労働が月65~80時間の事案については,労働時間以外の負荷要因(質的過重性)が認められる場合には、総合判断して業務上外を判断すべき旨を明確化しました。
厚生労働省の労働基準局長は全国約321か所の労働基準監督署長宛に通達を出し、「80時間未満でも労災認定されるべきものがあるので、明確に否定できないものは再検討せよ! 特に65時間以上なら考慮せずには判断するな!!」と指示を出しました。

このことは何を意味するのでしょうか。
実はこれまでは裁判に持ち込むしかなかった労災事例について、行政段階で労災認定される可能性を広げたということになるため、会社としては注意が必要となります。
具体的には、令和2年の労災認定の労働時間別申請・支給決定件数で見ると、上記グラフの赤い丸に上向きの矢印がある部分が今後大きく増えると考えられています。

実際にあった過労死ライン改定後の労災認定事案

ここでは、実際にあった過労死ライン改定後の労災認定事案を二つご紹介します。

労災認定事案(1)

一つ目は、2020年7月に東京都内の食品会社で、厚焼き玉子の製造に従事していた男性従業員(当時71)が勤務中に心筋梗塞で倒れ翌月に死亡したケース。
会社が卵を仕入れ過ぎたため製造量を倍増する必要に迫られ、数日にわたって深夜や休日出勤をしていました。遺族は2021年、労働基準監督署に労災申請しましたが、時間外労働が過労死ラインに達しておらず退けられてしまいました。
ですがその後、心疾患などで労働時間以外の負荷も重視する労災の新基準が導入され、労働保険審査会に再審査を請求した結果、高齢にもかかわらず気温と湿度の高い過酷な環境での業務を強いられたとして、2023年11月17日付で労災が相当と裁決されたのです。
労働保険審査会が労働時間だけではなく、高齢で過酷な作業をしていた点を重視し過重業務による労災と認めたのです。
(2023年12月1日 日本経済新聞より)

労災認定事案(2)

二つ目は、2015年2月に居酒屋チェーン「庄〇」JR柏駅前店の従業員が、勤務中に脳内出血を起こし救急搬送されて半年間入院したケース。
柏労働基準監督署はずっと労災を認めませんでした。それは過去2~6か月の平均が最大約66時間あまり、不服申し立てで認定では75時間となりましたがそれでも過労死ラインの80時間に届かないため認定されなかったのです。
しかし、2021年9月の改定を受けて12月に突然柏労基署から労災認定の連絡があったのです。

押さえておきたい“精神障害の労災認定基準の改正概要”について

精神障害の労災認定基準の改正概要
まずは、“精神障害の労災認定基準の改正概要”に触れる前に、2022年(令和4年)度の「脳・心臓疾患」と「精神疾患」の労災申請数と支給決定数を比較してみましょう。
「脳・心臓疾患」の労災申請数803件、支給決定数194件に対し、「精神疾患」の労災申請数2383件、支給決定数710件と、今や「脳・心臓疾患」の約3倍の「精神疾患」の労災が申請され、労災として認定されています。
そして「精神疾患」の労災件数は年々右肩上がりとなっているにもかかわらず、2023年(令和5年)9月1日に改正された「精神障害の労災認定基準」により、今後はさらに労災件数が増える可能性が出て来たのです。その改正概要が上記の画像になります。(厚生労働省のホームページより)

今回の改正で「業務による心理的負荷」に顧客や取引先から著しい迷惑行為を受けた・・・いわゆる「カスタマーハラスメント」も追加され、パワーハラスメントについてもより具体的に例示されて、労災申請がし易くなったのです。

最近の復職面接を見ていると、単純なうつ病による案件というよりは、ハラスメントを含んだ訴えをしてくる労働者がほとんどになっています。それらの問題に対する対応を社内のスタッフだけで問題なく進めるのは厳しいでしょうし、労働紛争に直結してしまうこともあるかと思います。
そのような場合には、まずは精神科医などが会社の担当者やご本人と面談して、労働者本人の本音を引き出してから落としどころを考え、社労士や弁護士さんら専門家とも相談するのが結果的には一番費用対効果が高いように感じます。
経営者としては、メンタルヘルス対応という特殊な対応は思いのほか社内の担当者さんへの負荷が大きくかかることも考慮していただきたいと存じます。行政の相談窓口や外部の専門家を上手に利用することで、他の従業員の疲弊を減らすことをお考え下さい。


最後に・・・

過労死ラインの変更に伴い今後の労災件数が増えることが予想されるため、会社としては今後益々、労働者の健康管理やメンタルヘルス対応が重要となってくるでしょう。

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